3-3.クリエイティブ産業というビジョンの必要性

クリエイティブ産業のサクセスストーリーが必要
次世代産業はクリエイティブ産業、というイメージがありますが、もっと具体的なビジョンが必要ではないかと思います。行政の方々がお金を出して、何かイベントLONDON Design Embassyの写真をやって一生懸命頑張っても、そのイベントが終われば、「成功したイベントが終わった」となってしまうことがよくあります。逆に、クリエイティブ産業に関わっている人たちが、ある方向を見据えたビジョンを組立て、その起爆剤として行政に関わって頂くともっと良い方向に向くのではないかと思います。これは先ほどの英国のクリエイティブ産業振興の話にも繋がります。英国のデザイナーから聞いたので正確かどうか定かではありませんが、英国のクリエイティブ産業振興は最初から行政が考えた訳ではないそうです。サッチャー首相が宣言したからではなく、英国のデザイナーたちが着々とデザインを海外に輸出する動きをやってきて、産業化する仕組を作ったのです。英国にはThink LondonとLONDON Design Embassyという組織があります。英国貿易投資総省(UKTI)が中心となり、デザイナーと一緒になって作った組織で、世界中の企業のデザイン組織をロンドンに誘致したり、英国の才能と世界の企業と結びつけたりする役割を担っています。我々デザイナー自身がそういう行動を起こして、ビジョンを描き、行政に提案をしていかなければいけないと思います。また、どんな小さなものでも、サクセスストーリーを作らなければなりません。結果を出していく必要があるのです。デザイナーはただの脇役ではなくて、プロフィットになるべきなのです。デザイナー自身に、企業の成長に対して、経営者と対等に役割を担っていく自覚があれば、いくら韓国や台湾に一定のノウハウや知識やメソッドがあれども、日本にはまだ長年やってきたというアドバンテージがあると思います。だから彼らがいくらやっていっても、中々です。一部のトップクラス企業はヨーロッパのデザイナーを使ってやっていますが、企業のレベルが下ればまだひどいデザインです。 日本には、教育・人材・高いレベルの消費者という優位さがあると思います。そうやって、デザイン産業像を徹底的に描いてみることが重要です。

これまでの産業デザインと異なるクリエイティブ産業(デザイン産業)とは
デザインの産業化とは、現在のデザイン業とどこが違うのかという議論を重ねなくてはなりません。デザイン産業を如何に強化していくか、どんな手段が必要なのかを議論してゆくべきです。デザイン産業はこれまでの(産業資本主義社会の)インダストリーから脱却し、クリエイティブ産業として独立しなくてはならないと思います。その意識の醸成から具体化までの道筋が必要になってきます。これ迄のフリーランスのデザイナーの多くは、クライアントを製造業にもとめ、下請けとしての業務を行っています。それではいけないという発想が重要です。アップルの事例は、デザインをしているのはアップルだけれども製品の製造は工場(Foxconn)に任せています。この構造こそが今後のモデルの一つになります。デザイナーは人が欲しがる物、人がバリューとして認める物は何かを考えます。そして、それを作り上げていく際に工場が必要であれば製造業、ネットワークだけで済むのならIT企業、また其の両方が必要であれば、其の両方を選択するのです。バリュー創造=デザインの形になれば、デザインもバリューが見えるようになり、其の先にクリエイティブ産業が見えてくると思います。アップルの例は企業体なので想像しにくいかもしれませんが、フィジカルな価値を生み出すだけではなく、メタフィジカルな価値も含めて創出するような社会システムを、創造形産業と呼んでも良いと思います。

日本独自の文化的資源/アニメや漫画の価値を資源化
欧米社会は、大航海時代から世界を支配してきました。彼らは、欧米文化に根ざした産業のシステムや商品価値構造を構築し、その仕組みの上で戦略的に商品やサービスを創り、市場でのビジネスや経済を有利に展開してきました。日本もある意味それに追随してやってきたのです。 一方、日本の文化や歴史に根ざした文化的リソースを価値として新たな産業に組み込み、モノ作りなどに生かし、世界に輸出できないかと考えます。地方の産業復興に携わっていると、まだまだ日本独自の文化的資産やリソースが多く残っています。技術力はいくら高度でも、真似をされたり、海外に移転されたら終わりなのです。全てに差異がイメージ写真なくなってしまい、利益が出ません。しかし、文化的な資産は真似をした時点で偽物になります。そのような文化的資産を基本としたブランド構築も重要なファクターとなります。もっと文化的資産にこだわらなければなりません。日本の文化を世界に広げながら、戦略的に新しい市場を創出し、文化的なブランド構築をしなければならないのです。文化的な情報価値を如何に商品化するか、という発想が必要です。それを形態やメッセージに翻訳できるのが、ひょっとするとデザイナーなのかもしれません。まず、文化的リソースとは何かを真剣に考えなくてはならないと思います。例えばトリノのムービーミュージアムでは、日本のアニメしか置いていませんでした。ミュージアムショップには、ガンダムから始まって、エヴァンゲリオンやサクラ大戦のグッズなどが置いてあります。どうしてこの様なモノがあるのか現地の人に聞いてみると、ジブリを除く殆どの著作物に関する使用権は、フランスの会社が持っているからだそうです。ヨーロッパの伝統的な石積みの建物のショッピングモールに10年か20年前に訪れたとき、そこにあったのはヨーロッパカルチャーのモノばかりでした。しかし、昨年訪れた際は日本のアニメのグッズがはその7割以上を占めていました。日本人にとってアニメやマンガは日常にあるものですが、このコンテキストを理解できるのはすごいことだと思います。ヨーロッパ人にとっては、実はものすごく高度なコンテキストに見えるのです。アニメは完全に現代の浮世絵で有ると言われ、一部のヨーロッパ人には浮世絵を超えていると評価されるほど、そのコンテキストは非常に洗練されていると解釈されているのです。すなわち、ヨーロッパでは単にアニメやマンガではなくアートなのです。ハイアートまでは行かないものの高いレベルのアートとして評価されています。それらと同じ文脈にあり、ハイアートに位置付けられている村上隆の原画は、欧米ではで億単位の評価されています。デザイン産業を構築するために、ヨーロッパがやっていることと同じ手法で良いのでしょうか。日本には日本のやり方があるのではないかと思います。向こうには大航海時代から培ってきたやり方があって、例えば保険という際どいシステムですが、一応きちんと成り立っています。また株式会社というシステムは、皆からお金を集めますけど、これも素晴らしいシステムだと思います。上手い具合に瀬戸際で色々なシステムができて、日本もそれに追随しながら成功してきました。しかし、デザインというのはこれまでの日本が売ってきた物や商品とはちょっと違う商品です。我々独自のシステムを考えていかなければいけません。ではその良さはどこにあるのかとなると、先ほどもお話したような、日本のあちこちに眠っている日本独自の文化的資源こそが、我が国が世界と戦う資産だと思います。そういう所までいかないと、日本のデザインというブランドは育ちませんし、世界で戦える産業に育てることはできません。

デザインバリューは何パーセント/デザイン原価は商品原価に入っているか
もう一度、デザインの価値認識の話に戻ります。商品開発の際はコスト計算をします。その中にデザインの価値評価が1 円も入っていない場合があります。コスト計算の中にきちんとデザイン価値を入れられる企業と仕事をする場合は良いのです。逆に、このデザイン価値が解らない企業を説得していてもあまり意味がありません。そして、それができる企業が日本にあるかと言うと、中々ありません。シャープですら原価の0.3%位です。中国では、8%の評価、自動車は0.03%以下です。デザインバリューは、きちんとソフトバリューデバイスとして原価計算に入れなくてはなりません。知恵や美しさはただではありません。逆に、我々デザイナーにも問題があります。それは、これまでデザインの価値をきちんと見積もれていないことや、その仕組みを構築出来ていないことです。さらにそのことをきちんと経営者に説明してきませんでした。デザインのバリューを製品の何%に値するかを計算することすら出来ていないことや、デザインの原価意識がないことはデザイナー自身が反省しなくてはなりません。更にはデザイン学の中で、それを研究している人間すらいません。ところが韓国と中国ではその研究が進んでいるのです。

デザイン産業のビジョンを投資家にプレゼンテーション出来るか
産業とはお金が回るシステムで、今の資本主義社会を前提に考えるならば、資本をどこから引っ張ってくるかが重要になってきます。元来、これまでの自動車産業でも電気産業でも、始めは資本が無いのですかイメージ写真ら、投資家が投資出来るだけの産業的なビジョンが描けるかが重要な課題となります。 英国の場合も、国が資本を直接投資している訳ではありません。しかし、英国を支える産業という位値づけで、UKTI(英国投資総省)や外務省が間接的に支援することでその資本は集まってきています。日本の様に予算をつけて外郭団体に投資するのではなく、間接的に支援することで投資家やファンドの信用を集めているのです。日本のデザイナーやクリエイターも、国や自治体の予算を使う為の外郭団体になるのではなく、資本を市場から集められる力やビジョンが必要なのです。日本のデザイナーやデザイン事務所は、自分の仕事に対する価値判断をきちんと行っているのか、すなわち、原価と市場価値を掴めているのでしょうか。また、そのような能力があるのでしょうか。ビジョンを数値化し投資家にプレゼンテーション出来るか、と自らに問い直さなければならないと思います。 日本の銀行は、今、新しい知的産業や医療産業に対してお金を出す仕組みを持ち、どこに投資しようかと考えています。ところが、デザイナーやクリエイターはそこへプレゼンテーションをしに行っていない。ただそれだけです。結局、資源を引っ張って来るだけの、投資に対する効果の説明ができないのが現在のクリエイターやデザイナーであり、これが大きな課題なのです。中国にパワーあるのは、そのような点です。例えば、ある事務所が国に対して新しいデザインと産業のビジョンを提示すると、それに対して18億円のファンドが動いたりします。だから強いのです。日本のデザイナーのように、絵だけを描いて商品を綺麗にデザインしても、資本は出ないのです。この点は中国を学ばなければいけないと思います。日本のデザイナーはそういったトレーニングを受けてきていませんし、ここにいるほとんどの方が、アートスクール出身の人で、そういうことが苦手だと思います。これから、日本でデザインをクリエイティブ産業化するためには、デザインスクール出身のデザイナーに加え、そのようなことも構築できる人材が必要であり、今はそういった意味で転換期にあると考えています。


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