4-4.商業的視点の重要性

商業主義的な考え(商業資本主義)と真摯に向き合う
 プロダクトデザイナーとファッションデザイナーを比較すると、ファッションデザイナーはきちんと稼いでいます。森英恵さんにしても、実際何百億というビジネスをやっています。それに対して、プロダクトデザインの方の人はそれだけ稼いでるのかということです。なるほどと思うのは、ファッションは元々、一部の創作活動はあるにしろデザイナーの自己満足ではない洋服を作り、そして買い手があり、デザイナー自身がきちんと自分でビジネスをしています。コムデギャルソンだって5、600億円規模の事業をやっているのです。すなわち、クリエイティビスイスフランティだけではなくそれをお金に換える仕組みが必要ということです。 ファッション産業を創り、盛り上げてきたのは、船場の商売人です。そのような視点が必要ではないでしょうか。イギリスでは、クリエイティブ産業は工業ではなく商業という視点なのではないでしょうか。英国が工業が発展していなかった頃には、中国からお茶の葉を仕入れ、紅茶に仕上げていました。繊維にしても、インドから綿花を輸入し洋服を作っていました。これらを全て取り仕切ってきたのはやはり商人で、merchantなのです。 輸入し、販売し、回収して、また投資をするということです。だから工業化、産業革命が起こる前には商業時代があったのです。産業資本主義社会の前は商業資本主義社会だったのです。デザインは単なるクリエイティビティだけではなく、それをお金に換える仕組みを創出しない限り継続しないと思います。このような仕組みこそ、この関西文明倶楽部で議論されているデザインマネジメントやデザインビジネスです。このノウハウや仕組みを構築しないと、デザインはクリエイティブ産業には成りません。クリエイティブであることやその方法はもちろん大切ですが、それ等をお金に換えて回収し、また再投資をするという仕組みや、優秀な人材を育てなくてはいけません。デザインをクリエイティブ産業化するためのデザインマネージメントやデザインインベストメントの方法、仕組みが必要ではないでしょうか。日本の伝統工芸が死に絶えようとしているのは、伝統工芸の優れた技術を現代社会のニーズに合わせた商品にプロデュースできる問屋がいなくなったからです。

ポスト産業資本主義社会では、製造業は日本から出てゆく
 岩井先生が述べられている通り、産業資本主義社会の工場制機械工業による生産性向上の利潤の源が賃金格差である限り、製造業は賃金が平準化した日本から賃金格差を求めて海外に出て行ってしまいます。そうすると日本におけるビジネスは、今解っている方法は商業しか残らないということです。日本が生き残るには、昔に戻るのも一つの方法であると思っています。

クリエイティブ産業は情報価値操作
  ファッションビジネスを例にとると、新しいファッションを提案した時、どんなに良いデザインを創出しても、仕組みが無ければ売れません。例えばハイファッションを例にとると、パリコレやミラノコレクションで発表後、それ等新作をハリウッドに送りつけてハリウッドのセレブに着てもらいます。そうするとセレブリティやスターには必ずパパラッチがついていて、パパラッチが撮ったセレブの写真を、ファッション雑誌や流行誌に売るのです。それを世界中にばらまくと流行が作られ、ファッション産業業界が潤います。またファストファッションは、世界中の先端都市にばらまかれた情報収集デザイナーが、今先端都市で流行っているファッション情報を収集し、本社デザイン部門に送ります。そして、仕向け地ごとにリデザインし、賃金格差のある生産地で大量に生産、短期間で世界中の都市で安価な価格で売り抜く、という構造になっています。これは見方を替えると情報操作の構造ではないでしょうか。今議論されてきたのは、クリエイティブは高いレベルに達しているにもかかわらずクリエーターが裕福ではないのは、そのような仕組みが出来ていないからではないかということです。例えば日本人は、日本で騒がれているミシュランのような選定・認定作業が大変下手くそです。認定基準を決めるなければいけないのにすぐ本質論に走ってしまい、ビジネスに仕上げる戦略的な視点がなく、その仕組みを創れていません。 F-1は、ヨーロッパ主導の自動車の価値構造を作る為の仕組みです。その罠にはまったまま自動車を作っている限り、ヨーロッパ車は超えられません。時代が変わって、F-1のようなガソリンくさい自動車を追いかけている限り、日本はリード出来ないのです。しかし、省エネをテーマにした価値構造のコンペティションとランク付けの仕組みが出来れば、日本がリードできるはずです。そして、日本がこれからの自動車の価値構造をマネージメント出来るようになります。そういう仕組みを日本国内で作ることが出来ていないのです。フランスワインのA・O・C=Appellation d'Origine Controlee などもそうです。クリエイティブ産業を情報操作産業と捉えると、前述のように価値構造を創出し支配することが出来るのです。

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