4-3.クリエイティブ産業創造への新システム

産業構造の再構築――経産省の産業分類は、産業資本主義社会の考え方
 現在、伝統工芸師等の人的資産は風前の灯です。この人がいなくなったら終わり、というのをたくさん見てきました。そこで、若いデザイナーたちと伝統工芸師がタッグを組めば何か新しい風鈴ものが生まれるんじゃないかというプロジェクトを起こしました。実際にそのデザイナーたちが工房を訪れて、伝統工芸の職人とコラボレーションを行いました。すると、今まで伝統工芸師がやってきた中では考えられないようなアイディアが沢山出てきたのです。それらが特許になろうとしています。そうすると、そういったものを応用した商品によって、職人さんの仕事が増えるのです。核になる地方自治体のある団体と、そこにつけるプロデューサーをコンビネーションにして、日本全体の文化的資産を見直そうじゃないかという話が出ています。経産省(野村総研)が行った「クリエイティブ産業に係る知的財産権等の侵害実態調査及び創作環境等の整備のための調査」の市場規模分類の一番下に、デザインが3900億円とありますが、何かおかしいな、とみなさん思われるでしょうか。その他の項目で、ファッション・食コンテンツ地域産業・住まい・観光・広告・アート・デザインがあるのです。デザインは、それ等の項目全てに含まれているはずです。ファッションになぜデザインが入っていないのでしょうか。食にもコンテンツにもデザインは入っていますし、観光にも広告にもアートにも、全てにデザインが入っています。 従って、行政の人と話す度に、デザインの共通言語というところで言葉を失ってしまいます。もうこれ以上しゃべっても共通言語がないので無理かな、と諦めてしまうところがあります。日本標準産業分類ではクリエイティブ産業については語れません。すなわち日本標準産業分類は、産業資本主義社会(20世紀迄の産業構造)の観念で作られたものであって、これからの産業を語るには馴染みません。また、本調査報告でも「日本標準産業分類の項目がクリエイティブ産業の定義になじまない現時点で、最も活用できる産業分類は日本標準産業分類のみであるが、細分類の事例として挙げられている具体的な製品の中には、市場規模の算出対象とならないものが混在するケースが数多く存在した。これは、現行の産業分類が製品・サービス等の外形的種類(アウトプット)によって分類するものであり、インプットに着目しているクリエイティブ産業の基本的な考え方とは乖離しているためである。現行の産業分類ではクリエイティブ産業の正確な市場規模を算出することは難しいと考えられる。」とあります。同じ書類の中で、そういう矛盾を孕んだ課題を投げかけているんだけれども、例えば住まいと地域産業というテーマでいろいろと取り組まれたら、この産業分類で成り立つのかというと、成り立たないと思います。そこにクリエイターであるデザイナーであったりコーディネーターであったり、それから設計技師であったり、いろんなクリエイティブをもった人間が関わることによって成り立ってくるのです。

新しい集客装置、価値創造システムの構築
 現在、日本の国は金融・経済・経営・技術・デザイン、全てのものがばらばらになっています。 これでは、これから期待される産業等にお金が回らず、それぞれが高いレベルにあるにもかかわらず各分野だけで完結し、大きな価値を生むことができなくなります。それらを再構築すると、日本は世界一の人工物(モノ・文化)輸出国になれると思います。日本の暮らし方、自然エネルギー技術、美意識やコンテンツ等、ゼロ経済成長に適した新しいモノ創くりの仕組みが作れるのです。これこそ、日本が今後世界に発信すべきです。そういった意味で、何らかの集客装置等の仕組み・クリエイティブ産業のインフラとしてのシステムを作らないといけません。それ自体がクリエイティブ産業ではないでしょうか。例えば思いつきでいうと、集客装置とは、寿司などは日本の食文化そのものであり、日本の○○協会かJAPAN SUSHI COUNCIL認定みたいものを作れば、それだけで一つの産業に成るかもしれません。あれだけ世界に日本食や寿司文化が広がって世界中に訳のわからない寿司がある中、そこに価値寿司の構造を作ったら、フランスワインのA・O・C=Appellation d'Origine Contorolee)認定ではありませんが、そういう風に産業としてコントロール出来るのではないでしょうか。 何かそういうシステムが必要です。ライフスタイルと言うと昔のライフスタイル戦略みたいになってしまいますが、そうではなく日本の暮らし方の価値基準みたいなものをきちん とブランド化して、それに基づき市場をコントロールしながらモノを売っていく、そういう構造というのは、世界中にあるのです。 そういうアプローチの仕方も、産業装置の作り方の1つです。

初等教育で、クリエイティブ教育を
 英国のクリエイティブ産業に関する8つの戦略・19のイシュー・26の対策、これはコミットメントであって、つまり8つのステラテジーと19のイシューと26のコミットメントをやるということです。その中で、戦略の1つに「全ての子供にクリエイティブ教育を施す」とあります。また課題には、1.個 人の創造性を確立 2.早期に才能を見出す、とありますが、本当にクリエイティブ産業を興して行こうと考えるのであれば、そこまでやる必要があるのです。すなわち全ての国民がデザインやクリエイティビティの重要さを知り、その才能を伸ばすのです。そして全ての初等教育の中に、図画工作でも美術でもなく、デザインという科目を入れます。幼稚園からやってもいいし、小学生の初等教育からやってもいいと思います。本気でクリエイティブ産業を目指すのであれば、これが必要です。前回の話で日本の中小企業はデザインというものを解っていないという話があって、デザインの 話をすると、「デザイン料は高いからいいですよ」だとか「うちの娘の友達がデザイナーでやってもらいますからアドバイスだけ下さい」というのが多いのが現状です。デザインに対する理解はその程度であって、これは教育に尽きると思っています。

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