4-5.世界を視野に入れたビジネス

多国籍のデザイナーが集まる、英国のデザイン事務所
 ロンドンのデザイン事務所には、ナショナリティーが数人、その他は世界各国からいろんな人達が集まっているというのが普通で、そのナショナリ英国議会とビッグベンティの数だけクライアントを抱えられる可能性があります。また、マーケティングや美意識もインターナショナルです。例えば、中国向けに開発するのであれば中国人がいますし、北欧で売りたいと言えば、北欧のデザイナーもいるのです。その中でデザイン戦略を練るのと、単一のナショナリティーのデザイン事務所で開発するのでは全く違う結果が出てきます。彼らの発想や活動はインターナショナルです。その事例をお話すると、英国の多国籍のデザイナーでデザインし、 そのデザインをモデル化する時は、世界で一番安くてスキルの高い韓国で行います。そして会議は東京で行ったりします。ビデオカンファレンスで会議をしたりすることが出来ます。これは2008年の話ですけれども、そういう仕組みで英国のデザイン事務所が動いています。クリエイティブ産業育成の政策の効果がとても高いのです。これは世界に冠たる大英帝国である英国らしいやり方かもしれません。あらゆる民族を自国に集めて、そこでクリエイティブを作っていくのです。では一方で振り返ってみると、どれほどの海外のデザイナーが日本に集まって、どれだけの仕事しているでしょうか?これはさびしい話です。

関西メガロポリス――大阪だけでは世界のハブにはならない
 大阪は世界のクリエイティブ産業のハブとしてなり得るかという問いについては、グローバルな時代に入って大阪を拠点にしてデザインのこと考えるなら、70億の人という規模(世界)を対象にしてみてはどうだろうか、ということです。10年かかるかもしれませんが、そのくらいの長期戦略で考える必要があると思います。またGDPを見れば、中国と日本、世界第2位と第3位の国が極東にあり、経済面では既に極東アジアが世界の中心に成りつつあります。アジアのハブから始め、その後世界を視野に入れてはどうでしょうか。そのためには、世界のハブになる為の哲学やビジョンが必要で、その為の考え方や仕組みも必要です。先ほどの報告の様に、香港やソウルがそのハブ構想を推進し、好位値に付けているシンガポールなどもグローバルな発想を持っており、世界の有力企業のデザインセンターが集まっています。そして日本のそれよりもはるかに次元が高い議論をしています。周辺国が変わっていく中、それ等の力をうまく利用し、様々な議論を深めていかなければなりません。 周辺国は、国家戦略や都市の経済政策の一環として早くから気付き、推進しています。それを大阪が、「やります」と宣言する、その決断ができるかどうかです。大阪だけではデザインの中心に成り得ないと思っています。グローバルという視点から見ると、都市のブランド力では京都でしょうし、関西圏全体で考えると多様で個性的なアイデンティティを持つ都市があり、また多様な産業リソースもあります。関西圏で考えると可能性は大きく広がるのです。

日本の生活文化を世界へ輸出する
鉄瓶 日本人が世界で一番優れていて、日本の生活文化が素晴らしい、とヨーロッパの人達が評価していて、日本人の暮らし方がこれからの人間の暮らし方に近いと彼らは述べています。私達は気づいていませんが、彼らは気づいているのです。小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は生前、「西洋の文化は華美を求めることで、できるだけゴージャスに華美を競い合う、しかしその文化は最終的には滅ぶであろう。最終的に残るのは、アジアの日本の文化である」と言っています。それを、今日本人が忘れているんじゃないかと思います。とにかくどれだけ多くの商品が売れるか、という大量生産にまだこだわっているのです。時代は、経済はゼロ成長と言われているにもかかわらず、まだ成長神話を論じている人がいます。クリエイティブ産業とくっつけて、日本の暮らし方や文化、美意識、自然エネルギーの技術を世界に向けて輸出するべきです。

新しいお金を集める仕組みとお金の使い方を再構築
 先ほど、経産省が作った日本標準産業分類を見直す必要が有るという議論がありましたが、日本の日本標準産業分類を考えると、とてもじゃないが成り立たない、全く新しい産業構造の仕組みというのを議論しながら、クリエイティブ産業の在り方について考える必要があります。そして、集客・ 集金装置みたいなものも考える必要があります。それは、これまでの製造業とか技術立国とは全く違う仕組みになっていくような気がしています。そのために何が必要かというと、補助金の政策ではなく、民間・マイクロファイナンス・ファンドとか、ネットワークファイナンスジャパンみたいな仕組み等であり、これまでとは違う動きをやるべきです。補助金や政府のお金をあてにするのではなく、それこそ、ファンドやファイナンス等に実際に参加してもらえるビジョンをどう作れるかが成功のキーになります。もう一つうまく行かない理由があります。それは、基本的にソフト産業立国構想というのはマンパワーがベースになっていることです。経産省のクリエイティブデザイン室だって、ヒトとモノとコトと言って、ヒトが入っています。ところが、国は補助金を企業にはつけても、人にはつけないのです。これは、企業は社長が交代しても続くから安全だが、人の場合は交通事故で逝かれたら終わりだ、という理論で、人にはお金を付けないのです。これはイギリスや韓国と全く異なります。サッチャーさんは、「今のイギリスがあるのはビートルズのおかげだ」とはっきり言っています。これはマンパワーを認めている証拠です。一方の我が国日本は企業優先であり、この根本的な考え方にうまくいかない要因があるのです。香港デザインセンターがハブにウォールストリートなりえる、という話がありますが、実際に去年の香港デザインセンターのDFAの審査に立ち会った際は、 ものすごい待遇でした。行きもビジネスクラス、現地では24時間連絡できるコンシェルジュが付き、ちょっとホテルを出て買い物をするにも、いつもタクシーが来てコンシェルジュ付きです。英国のUKTIのインビテーションによるビジネスマッチッグも同様で、飛行機こそエコノミーではありますが、往復の飛行機代と滞在費は英国持ち、さらに現地では外務省の外交官と通訳が常にホテルに迎えにきます。こんなことは日本では考えられません。日本政府は、人を信じていないのです。

コンテンツメディア産業も韓国に持っていかれるかもしれない
 韓国・釜山市の海浜リゾート・海雲台(ヘウンデ)。映画センターを築き、釜山市一帯に6万平方メートルの敷地にアニメータを育てる施設を建設しています。韓国は、文化産業が21世紀の産業をリードするものであると位置付け、日本のマンガに対してMANHWA(マンファ)という言葉を流通させる戦略をとっています。一方の日本では、コンテンツメディアの殿堂が秋葉原にできるところが、民主党の仕分けに合って、実現出来なくなってしまいました。その結果として、日本のコンテンツクリエイター達が、韓国のメディアと契約してコンテンツを作っています。韓国はマンガやアニメにおいても日本を席巻しようとしているのです。私達が感じているこの危機感を、我が国がどれだけ理解しているのでしょうか。前回の議論で、日本の有名なアニメのコンテンツの使用権の多くはヨーロッパに売られてしまっているという話がありましたが、日本にそれ等のコンテンツをビジネスとして捉えて産業に育てる事は出来ないのでしょうか。儲ける仕組みが無いため、コンテンツクリエータやアニメータは、一部の人たちを覗いて赤貧の生活をしています。この人達はかつての、日本の電気メーカをリストラされ韓国や中国の企業にハンティングされた技術者やデザイナーの様に流出してしまいます。このような危機を打開し、日本の電機メーカーの敗北の鉄を踏まない様な仕組みと、クリエーターが適切な収入が得られる仕組みとその支援が、今後極めて重要かもしれません。今の行政のやり方では、何か事業をしました、という実績しか残りません。「我々も努力したんですけどね...?」という言い訳の為に。韓国はコンテンツ振興院を設け補助金約1800億ウォン(133億円)投入、「21世紀は、文化産業がすべての産業をリードするようになる。」として、最も重要な戦略として位置づけています。1990年代から始められたその文化戦略は、近年その成果が現れてきています。韓国ドラマやK-popの普及しているベトナム等の東南アジア諸国やその他の新興国では、韓国の生活スタイルに憧れを持ち始めています。このことがさらに韓国の生活家電のブランド向上に大きく貢献している事も認識しなくてはなりません。中国も、2007年の共産党大会で「文化軟実力(文化のソフトパワー)」 を重要国策の一つに位置付け、映画やアニメ産業育成に注力し、「動漫(アニメ)産業基地」を 大連、天津、長沙など約20カ所につくり、従業員1千人を超えるアニメ企業が育っているのです。

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