3-1.産業デザインに関する世界の動きを再確認

これまでの経緯と今回のテーマ『産業デザインからデザイン産業へ』
関西文明倶楽部は、今回で3度目の開催となります。 まず、第1回は運営委員の方からいくつかの話題を提供させていただき、テーマ探しの議論を行いました。その結果、大きく分けて4つのテーマが出て参りました。 1.物の消費への葛藤、2.デザインの再定義、3.デザインへの期待と新しい役割、4.デザインの目標とイデオロギーというものです。 昨関西文明倶楽部が行われている写真年11月19日に行われた第2回では、JIDAフォーラムと関西文明倶楽部を同時に行い、JIDAの理事を含め、デザインについてもう一度考え直すということ=「デザインの再定義 と枠組み」について議論致しました。「デザイナーは本当に必要か」という議論から始まり、「デザイナーは必要であるが、 現在のデザイナーやデザインという名称では無くなるかもしれない」という結論に至りました。近年、デザイナーとその役割は非常に多様化しています。工業デザインを例にとると、 単純にモノづくりをするだけでなく、ソフトウェアデザインやエクスペリエンスデザインなど、その枠組みは広がっています。そのことに対して誰も異論はありませんでした。その上で、デザインにはどんな役割があるのかを議論を致しました。 デザインは単にモノづくりやコミニュケーションツールに留まらず、様々な分野に応用されること、そしてデザインメソッドは経営に関わる場面でも求められていると思います。 そういった期待がある中、我々デザイナーはこのままで良いのか、との問いかけがありました。 デザインの概念が大きく変化し、これ迄のデザインの範囲には収まらなくなったことから、 第3回関西文明倶楽部では、「産業デザインからデザイン産業へ」というテーマを取り上げました。これまでのデザインは産業を支える職能でありましたが、デザインそのものを産業に育てることはできないか、そのような期待があります。 そこで今日はみなさんに「産業デザインからデザイン産業へ」というテーマで議論頂きたいと思います。

英国/欧州
デザインに関わっている方々は以前からご存知だと思いますが、サッチャー首相がデザインを産業政策とするという宣言をし、1998年には金大中さんとブレア首相が21世紀デザイン宣言をしました。そして、温家宝首相は「デザインを新資源」と位置付けるという宣言をしました。韓国・台湾・香港・中国等で、デザインは産業の中の重要な資源・メソッドであると位置付けられています。英国では機械工業産業という産業がなくなり、次の産業の一つとして、デザインをクリエイティブ産業と位置づけています。クリエイティブ産業は、英国のGDPの8.2%(2007年現在)を占めています。英国では、貿易投資総省(UK Trade and Investment、以下「UKTI」)・外務省・Think London(ロンドン投資促進機構)の3つの機関が1つとなってクリエイティブ産業を世界に輸出をしています。2008年の事例では、18ヶ国57団体が参加し、日本からは3社のデザインの責任者が招かれビジネスマッチングを行っています。 その際は、UKTIが旅費や交通費の全てを負担し、日本人外交官・高級外交官が各1人、それに通訳者1人が招かれました。英国はこれを毎年行っています。これまでに約10回(2007年現在)行われており、今回の開催では特に中国・韓国企業が目立ちました。 大企業に所属していた方は経験がお有りだと思いますが、領事館や大使館はデザイン事務所を売り込みに来ます。これは英国に限らず、スペイン・フランス・イタリアもそうです。その結果、日本に入ってくる中国製品のデザインレベルは高くなっています。日本のデザイナーは振興国のデザイナーと戦っているのではなく、こうした先進国の一流のデザイナーと戦っているのです。特に韓国のデザインレベルは、もう既に日本に追いついています。

アップルはクリエイティブ産業の典型
アップル社は、クリエイティブ産業の典型であると考えています。アッイメージ写真プル製品は全て中国の鴻海精密工業(FOXCONN)で製造されています。あれほどの生産性と生産技術力は、日本では真似をすることは出来ません。アップルのパッケージをよく見ると、「Designed by Apple in California」、そして「Assembled in China」と書かれています。「Made in China 」とは書かれていません。これは、どこでデザインされたかが大切なのであり、製造された場所はもはや重要ではない時代になっているということを意味しています。アップルは、実質的にはモノを生産していません。行っているのは研究開発・OSとクラウドによるサービス・そしてハードウェアの設計デザインのみです。物理的に自社でモノを生産しているわけではないのです。

中国は人材を輸出――未来の為にワーキング留学
中国ではデザインの大学を500以上も作り、就職先が云々という問題があるのですが、実際はデザイナーを輸出することを考えいるのだと思います。そして、海外経験のある人材を育成しようとしているのではないでしょうか。 現在は清華大学を頂点に、上海交通大学や同済大学など各国立大学に産業デザイン学科を設けています。広東工業大学では、工業デザイン、いわゆる産業デザインで一学年が1800人です。1~4年生を合わせると、工業デザインだけで7200名の学生が居ることになります。韓国の企業は、この人材を求めて中国にリクルートにやってきます。イギリス清華大学の写真はデザインを輸出していますが、どうやら中国は人材を輸出し始めているようです。 これは将来、韓国で実践的にデザインを学んだ中国人デザイナーが大量に現れることを意味しています。また韓国・中国以外では、シンガポールに大企業のデザインセンターやそのブランチが集まり、香港ではアジアにおけるデザインハブを狙った様々なデザインイベントが行われています。特に香港は、英国のクリエイティブ産業施策をモデルに、多くのデザイン関連会社や団体を誘致しています。


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