2-2.多様化するデザイナーの役割とデザイン

スケルトン(基本構造)の提案者
デザイナーが生活の枠組みの中で、スケルトン(基本的な構造)を提示するものであって、生活者がそのスケルトンに肉付けする(使いこなす)ものです。

デザイナーが80%、ユーザーが20%で完成する
インテリアデザインや暮らしに関わるデザイナーからみると「私達の仕事は80%まで完成させて、後の20%はユーザーが暮らしの中で完成させるもの」という考え方があります。もちろん、技術的な事や品質的な事は100%保証しなければなりませんが、住宅や家具等のハードだけではデザインが完成しない、すなわち十分に使いこなされてこそ、暮らしというデザインが完成するという意味です。

ファシリテイターとしてのデザイナー
住宅や暮らしのデザインを始めるとき、施主に様々な暮らしに対する思いや、過去の暮らしぶりを聴き、また子供に伝えたいことを聴いた上でデザインを提案します。また、建築業界では当たり前に言われていることですが、「お客様はご存知ない」と。すなわち、お客様から、その暮らし方や大事な事柄を聞き出し、具体的な住まいに実現することがデザイナーの仕事です。それぞれのお客様や家族によって価値観や美意識が違う訳ですから、住まいは生活するための実用的装置であると同時に、家族の文化(絆)を伝えるメディアでもあります。

デザイナー時代の糧(新たな価値)を創造出来る人
今やデザイナーの活躍する場所は拡大し、様々な場面で活躍する可能性が生まれています。モノ作りに限らず、人の営みのプロセスにおいての様々な段階でもそんな場面がありますし、またプロセス自体もデザインの対象になり得ます。そうして糧(新しい価値)を発見し、具現化するメソッドを持っているのがデザイナーです。

言語化できる知識だけでなく、思いや、イメージを可視化する
マーケッターの立場から捉えると、デザイナーやデザインという体系で蓄えてきた知見や知識、メソッドに期待するところが大きいのです。例えば、IDOのデザインシンキングもそうです。我々も、商品開発等に活用しています。最近の脳科学では、言語化している人の意識というのは5%ぐらいで氷山の一角であり、あとの95%は無意識であると言われています。エスノグラフィやfMRI等を使って脳科学的に解析しようと様々な試みが行われていますが、まだまだ未知です。しかし、アブダクション的な思考、すなわちデザイン的思考や方法が最も現実的です。ラピドプロトタイピングにより確認しながらリアライズする方法がありますが、その基を創るのはデザイナーであり、デザインの方法です。そういう意味で、デザインやデザイナーに期待することが大きいです。マーケティングにおいても、コトやモノを作り出すことを目的としているのですが、デザインとの差が見えなくなっています。というより、差は無くなって行くと思われます。そして、可視化する対象はモノなのかコミュニケーション等のソフトなのかも、その差は無くなってきています。

デザインはもはやモノ創りではない
アブダクションの説明にあった様に、仮説を定義することはデザインの力であり、それが形や物とは限らないと思います。デザインはすでにモノやコトから体験に変わって来ている訳で、その意味では、すでに旧来のその形ではありません。そしてさらに今日の技術、特に情報技術というのが生活を大きく変えている中で、職能としてのデザインは変わらざるを得ません。それは基本的な認識だろうと思います。加えて、3月11日以降のモノのあり方、科学技術とは何であったのか、と言う事が問われているのだと思います。

インダストリアルデザインは堂々とシュリンクするべし
デザインの枠組みの拡大に反比例するかの如く、今や本当に絵だけを描く、形だけを押さえるようなプロダクトデザイン、インダストリアルデザイナーの仕事がシュリンクしています。世の中のデザインの定義が非常に拡張していることに対して、このままでいいのだろうかという疑問も持たず、自分が変わらなければならないのかとも考えていません。堂々とシュリンクすればいいのです。変わらず、クオリティの番人であるべきではないでしょうか。
昔は、生活者がクオリティを抑えるだけの文化的素質がありましたが、インダストリーの時代に入ってから、そういうものが無くなってしまいました。私達デザイナーが、やるべきことをしっかりやるべきではないでしょうか。


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