3-2.産業資本主義社会的製造業の終焉と次世代への萌芽

デザインの枠組みが見えなくなってきた
ある日本の研究所で行われている研究の一つに、全くデバイスを持たない携帯電話の開発があります。空間全体に100mmピッチでマイクを仕掛けておき、そこにいる人間の顔認識を行い、ピンポイントで音を拾い、会話以外の音声ノイズを全て除去します。それにより、通話者には通話音声のみが聞こえるという仕組みを作る研究です。これが可能になれば、デバイス無しで通話ができるようになります。それを実験しているうちに、デイメージ写真バイスの形態のデザインや、プロダクト、つまりツールをデザインする必要があるのかという疑問が生じてきます。私たちはもっと、人間が本来求めているものについて考え、何を開発するべきかという根本的な課題と向き合わなければならないと思います。このように、人が求めている課題を発見し、其の課題に対する解決法を求めるのが本来のデザインだと思います。すなわち、形のあるモノのデザインだけではなくなってきているのです。

一歩先を行くファッション産業
マーケティング視点からデザインを考えてみます。大阪の繊維業界の歴史を見ると、元々ファッションというのは繊維産業がベースとなって、それに色を付けたり、形を与えたりしながら、アパレル産業に姿を変えてきました。この頃もまだデザイナーは一つの味付けの役割でしかありませんでしたが、丁度90年代あたりから、もうアパレル産業でさえも駄目なのではないかと思っています。ファッション産業は、言ってみればデザイン産業に変わってきているのです。ファッションというよりもむしろデザインを売るものであって、いわゆる洋服や繊維を売る産業ではないということです。このような考えは90年代くらいに徐々にコンセンサスを得てきたように思います。ことファッション産業に関して言えば、繊維業界は全てファッション産業になって、まさにデザインやクリエイティブがなければブランドは成り立ちません。あるいはその源泉を保てないと思います。このように、非常に進化してきたのだと思います。こうしてプロセスを振り返ってみると、プロダクトデザインも同様に十分に産業として成り立つのではないかと考えています。

経営者がデザインと真摯に向き合えるかが鍵となる
ファッション産業は、これまでのように単にデザイナーを雇い、色を付け形を作らせるということではなく、クリエイティブな感性とビジネスを上手く組み合わせられる経営者の人材が育ってきたことで段々と進化してきたのではないかと思います。そういった意味では、この「産業に成りうるか」という課題は、経営者がデザインに対して真剣に対峙出来るかということが鍵になると思います。 経営者が真摯にデザインと向きイメージ写真合うことをしなければ、産業には成り得ないと思います。現在のデザインは商品開発やマーケティングのメソッドになってしまっていて、企業そのものを根幹から変える原動力にはなっていません。先にも有った様に、アップルのスティーブ・ジョブズはデザイナーではありませんが、デザインの価値を一番見つけた人ではないかと思います。すなわち、デザイナーという肩書きがないとデザインが出来ないのではありません。経営者のデザインマインドのようなもの、あるいは感性など、デザインを経営戦略の上流工程に持ってこられるかが重要ではないでしょうか。 デザインを下流工程のメソッドとしてではなく、デザイン経営という上流工程にきちんと位置付けをするということです。今、韓国や台湾の経営者たちはそのことを非常によく理解してきています。それに対して日本は、技術力や営業力などが先にあり、デザインは脇役になっている状態です。1980年代頃、韓国政府はデザインを最優先部門に持ってくると言っていました。サムスンは、元々はお砂糖や京織物の会社ですが、経営者たちはファッションで鍛えられたのだと思います。サムスンが今日デザインマインドが高いというのは、サムスンの経営者が、早くからファッション産業がお金になることを知っていたのだと思います。そのことをよく理解し、投資をして人材を育ててきたのです。日本の場合は、デザイナーのタレント性に頼ってしまっています。行政が、デザイン振興と言ってデザイン振興センターを各地に作ってきましたが、実際にはいわゆる補助金みたいなもので何となくやっており、それが終わったらお終いということです。しかし、そう言いながらも相当なデザインのバックグラウンドは出来てきたと思います。今回の様な、産業を目指すという議論のもとに集約していこうと考えると、ある面でアドバンテージが出てくる可能性は十分に考えられると思います。 一方、今色々なことが起こっているITC にしても、iPhone にしても、基本的には全てアメリカのシステムを使っています。商品のデザインをする云々の問題以前に、そのような支配的な仕組みを作ってしまっています。このことと先ほどのファッションの話はよく似た構造になっています。我々日本のデザインというのは、経産省を中心に育てられたきらいがあり、それこそ輸送戦団方式ではありませんが、Gマークというスタイルでデザインが発展してきました。そして大企業のインハウスのデザイナーがたくさん出てきましたが、欧米諸国の様にデザインを根幹とした産業が見えてきたかというと、全くそうではありません。現在はそんな状況にあると思います。

日本の産業構造の変革――製造業が無くなるかもしれない
日本の輸出産業は、無くなるかもしれません。内需産業だけを残して、自動車と電気は潰れるかもしれません。グローバル化を進めるべき産業と、そうでない産業をきちんと見極めずにグローバル化を目指してはいけません。グローバル化をして外貨を稼ぐ産業は、あと3年も持たないかもしれません。では、自動車産業や電気産業に変わる何かを構築して、何とか3年で仕上げなくてはなりません。なぜかと言うと、電気産業の利益率は1%です。それでは意味がありませんので、辞めた方がいいと思います。アメリカやドイツやヨーロッパの電機産業は、テレビやオーディオを造ってはいません。そのような商品は中国等に任せています。例えばアップルの様に、デザインはカリフォルニアでやっていますが、アセンブリは中国です。アメリカの電機産業は今60%が医療産業です。その利益率は17%、つまり日本の17倍です。今年にはドイツも医療産業が50%を超えました。つまり電機産業の殆どが医療産業なのです。フランスもそうです。そして、有名な「ダ・ヴィンチ」というロボットで手術をするのですが、あれはすべて日本製で、デンソーのものです。デンソーの人間は、もう自動車産業から外れ、医療産業のチームに組み込まれ始めています。世界の自動車の売上は今年で200兆円です。トヨタが連結決算で20兆円ほどです。ところが、今年医療産業は200イメージ写真兆円を超えています。経産省の読みでは、世界のマーケットは2020年には500兆円になるそうです。これは自動車の2.5倍です。既にこれの取り合いが始まっています。現在、三井物産と私が組み、世界最大の病院グループを買収し、日本の医療産業のサポートをしようとしています。ところがサポートをしようにも、日本には医療産業を支える人材がいません。航空産業・自動車産業・電気産業ばかりです。機械では、人材が100%稼働していないことから、グループ会社や支援会社の人材が医療機器産業に移ることで、2020年に50兆円の国内需要を作り、287万人の雇用を生もうとするライフイノベーション戦略があります。中国は既にこのことに気付き始めています。

デザインという枠組みを超えて――クリエイティブ産業構築へ
一方、村上隆がアートの企業化、産業化を提唱していますが、実際に、アートやアニメーションなど、アニメーションの世界から出てきたコミックアートの世界が新たなビジネスとして芽生えつつあります。ファッションは、もう既に先ほどお話しにあった様にビジネスとして成立していると思います。英国は、デザインや音楽などと言わずにクリエイティブ産業と呼んでいます。その辺の際を全て取り払ってしまっていて、我々デザインを長いことやってきた人間からすると、それはデザインの様なものです。そういったものが、大きなバリューを生み出す仕組みとして成り立ちつつあるのではないかと思います。日本に限らず新興国と呼ばれているアジアや、元々ヨーロッパはそういうことに対してのバリューが解るのです。世界レベルで、それらを上手く整理しなおしたら面白い流れが出来るのではないでしょうか。現在、経産省や大阪府、大阪市などは、国内で様々な新しい産業を興さなければということで次の産業を考えつつありますが、どうやらその基準が18世紀以降のインダストリーにイメージがあり、次の時代の産業のイメージが無いと感じます。今、人の感性に関わるものが産業として成り立ちそうな流れがあり、そこにはデザインやアート、そして音楽や吉本興業を含めてもよいと思うのですが、国や官僚にはそのようなイメージが無いように思われます。民主党の戦略室の話しを聞いていても、どうやらこれまでの産業イメージの延長線上で話しをしていると感じます。これはおそらく、今の経営者・政治家・官僚では発想できないのではないかと思い始めています。逆に、これまでクリエイティブという概念の上で一生懸命生きてこられた方々なら、新しいクリエイティブ産業の流れを作れるのではないかと考えています。

デザインを海外に直接輸出するという発想
日本の経営者、特に中小企業の経営者はデザインの価値を分かっていないと思います。おそらく大多数の企業経営者がそうだと思います。だからこそ、認識を改めてもらうというか、デザインの大切さや其の認識を上げていく取り組みが必要で、行政もそれに力を入れています。しかしそのような啓蒙運動をしても、技術神話がある限り、もう遅いのではないかと思います。では、日本から完全に製造業が無くなる前にデザインを直接輸出してはどうでしょうか。 デザイン等のクリエイティブソフトを理解出来ない中小企業を放っておいて、デザイナーは 其の力を理解できる中国や台湾や韓国の経営者にデザインを直接売ってみてはどうかと思うのです。そうすると、おそらく日本の製造業は急速に衰退するでしょうが、クリエイティブ産業として発展すイメージ写真るのではないかという発想もあります。英国はそういった割り切りをしたようです。国内にはもう製造業はありません。全て外国に売ってしまったのです。ジャガーにしてもオースティンにしてもそうです。日本も国内の製造業は放っておいて、仮にここにいるデザイナーの方たちが中国、アジア圏を中心とした海外へデザイン直接売るということです。 韓国は、大企業経営者だけがよく理解しています。サムスンやヒュンダイなどは、デザインに対して膨大な投資をしており、その結果が既に現れ始めています。 そうすると、次に投資すると考えられるのは素材産業です。それを日本でリサーチし、韓国へ持って行こうとしています。そうなると、製造とかそういったことが全て中国や韓国へ移ったときに、日本の製造業に頼ってきたプロダクトデザイナーは生きていけなくなります。そうなる前に、プロダクトデザイナーは日本の製造業から自立して、市場が世界にあるという発想で世界にデザインを売っていくという手もあると思います。香港や台湾はそれを狙っています。工場は中国本土に移してしまい、設計、要はデザインだけ残すという方法もあると思います。 逆に、行政もそのような発想を解らない日本の企業経営者を説得しようとしても不可能ではないでしょうか。分かる人に話をすべきです。 仮に日本の今の製造業、特に中小企業の社長たちがデザインを全く意識していないとしたら、中国から入ってくる良いデザインの物が売れ始めてからデザインの重要性に気づくことになるかもしれません。 その時では遅いかもしれませんが、それくらいの発想をして動かないと全てがだめになってしまいます。新しい価値の構造、そして創造産業の種を蒔けば、既存とは異なる産業のあり方が見えてくるのではないかと思います。かつて学生時代に、日本は資源不足だから加工貿易で成り立つと言われ、いわゆる製造業は、やはり成功しました。しかし、この成功体験は80年代で終わっているはずですが、それを後生大事に90年代まで引っ張ってきてしまいました。その結果、今はほとんど利益が出ていません。 現在、楽天やヤフーなどのメディア関係が企業ブランドの上位に入ってきて、番付ではどんどん製造業が落ちてきています。この実態を見ても、アップルの成功事例もそうですが、この考え方は非常にノーマルな考え方だと思っています。アブノーマルだと考える人が何時までも頑張っていると、泥船に乗ってしまうことになります。 むしろ、日本の製造業を諦めてデザインやクリエイティビティを直接輸出するという発想をスムーズに進めなればいけません。

Copyright(c)2013 Kansai Bunmei Club All Rights Reserved.