9-3.京都の可能性

京都のビジネスモデル
 今のお話ですが、私は、京都に産業は残っていると思います。伝統産業と先端産業を考える時に、よく思い出すのですが、京都の松栄堂さん、お香ですね。ここのビジネスモデルは凄い。京都の本山、お寺の本山ですね。 寺 そのお香のレシピを全部、持っているのです。これは、お寺がある限り大丈夫な訳です。「価値を守る構造」ですね。
先程の着物の話ですが、この世界では、そういった「価値の構造」が壊れてしまったのでは、無いか。織の技術、染め技術の職人はまだ、いらっしゃいますのですから、その構造をもう一度、作れば、産業として生き残る途はあるんじゃないか?その様に見て行くと、「商売人が構造を作る力」が無くなってきた。戦後、日本はモノづくりに偏りすぎたお蔭で、その様な仕組みが崩壊してしまった。そんな中で何とか仕組みを残したのが、松栄堂さんである。新しい事もしているけど、それは実験である。実際のビジネスは「本山のお香を作る事」である。今の技術は、レシピさえあれば、直ぐ作れる訳ですから、その仕組みを持っている事が一番強い。

京都のポテンシャル
 京都というのは、日本でも特異であり、世界から注目されている場所です。悪く言えば、周回遅れで成り立つ事、気が付くと一番になっていたと言う事もある訳です。時代を経ても変わらないでいると特異なモノになります。先ほどの御話の様に、着物を着て歩くとそれは特異な訳です。 街 特異なモノはエネルギーがあり、価値があります。全てが同質だとそれには価値が無いのです。コンビニが日本中に行きわたる、チェーン店化すると日本中が平たくなる。「何処に行っても小さな東京であるなら、旅行する必要はないじゃないか」という事で、「ここは変わらないぞ」と言う点を持てば、それが京都のポテンシャルになる。変わらないモノを作り続ける。通常の株式売買の様に、成長時に売却するのではなく、持ち続けてそのリターンを得る。いわゆるゼロ経済成長ですね。サスティナブルという考えですね。
我々、デザイナーが考えるべきことは、柄やパターンでは無くて、例えば30秒で着られる着物を考える。そうすると着物を着る人が増える。京都の着物が風景になる。それがポテンシャルとなり、観光客が増える。そういった仕組みが大事な訳です。

日本の技術が狙われている
 最近、日本各地で何度か、海外ブランドのバイヤーと何度か遭遇する事がありました。彼らは日本を、日本のクリエーターをマーケティングしていますね。でも、日本側は儲かっていない。カルティエに採用されて嬉しい、で終わっている。さっき、商売といったのは、そこなんです。 彼らは、シーズハンティングをしている。伝統工芸に関わらず、医療の世界でもハンティングをしている。彼は、日本に見えない拠点を持って動いている。そうすると田舎の人は、「えっ、世界に出るんですか」と言って全部、情報を渡しちゃう。彼は少しだけのお金を払う訳ですが、契約書が最初から、向うだけが儲かる様になっている。そんな、契約書なんかは大企業じゃなければ管理出来無い。京都には商売のネタが一杯ある。それをミラノサローネに持っていく。 街 契約が取れた、でも儲かるのは彼らだけなのです。それをなんとかしたい。
例えば、スタジオジブリ。あれ、ヨーロッパではフランスの会社が版権を持っている。ジブリは向うで流行っているけどその利益はほとんど、その会社が持っていく。日本のアニメで儲かっているのはガイナックスぐらいです。エヴァンゲリオンのチームです。ここは版権をちゃんと持っている。彼らは、ビジネス戦略としてアニメをしている。関連グッズをオモチャまで作る。

日本の技術はオーバークオリティか?
 日本は、エレクトロニクスで伸びて来たんですが、伝統工芸と同じだと思うんです。日本の超ハイテクな機器に世界は付いて来ない。人間国宝が作る着物も一般の方は買えない。日本がサムソンに負けたのもそこで、日本の技術を過信した。どんどんハイテクを積み上げていった。例えば、液晶画面。日本の基準で精査?すると歩留まりが悪い、30%の製品がライン落ち、基準値以下となります。しかしサムソンはその基準を下げた。そうするとライン落ちは10%になった。そら、コストでは勝てなくなりますよ。
伝統産業でも汗水たらして、モノづくりをしても、ペイしない。今日の話で驚いたのは、「えっ!伝統産業もそこまで行っているのか!」です。もはや生産は中国、ベトナムで行っている。もう、ほとんどが海外に出て行っている。

Designed in Kyoto
 最初に紹介した様に、Appleは何も作っていない。作っているのはフォンハイ、でも設けているのはApple。伝統産業もそういう構造にしないと儲からない。Design in Kyotoに。
Design in Kyotoで、Product in Kyotoと Product in Thaiの両方をやらなければいけない。両方を用意するから価値がある。モンブランの限定万年筆、100万も200万もするんですが、発売すると即座にソールドアウト。そのイメージを利用して、安いモノを売る。
一つ一つのデザインはちゃんとするけど、もっと大事なのは価値の構造を作り上げてビジネスモデルを構築する。

京都モデル
 京都での最近の成功事例を紹介します。グリーンロードモータースさん、京大卒のベンチャー会社です。社長さんはまだ30代です。お話を聴くと、京都でなければできない事をされた。京都の自動車ってピンとこないかもしれませんが、一通り揃うんですよね。電池、ボディー、電装部品など、全部京都で揃います。電気自動車っていうのは、結構、コモディティなので、トヨタでなくてもクルマが作れるわけです。そうすると中国製が出てくる。 街 そんな状況下でどんなビジネスモデルならば生きていけるのかを模索された。部品を集めれば電気自動車はできるので、最後に残るのはサスペンションとブランドであると。サスペンションはノウハウの塊なので、中国では無理だろうと。彼らはそのモデルでお金を集めて車を作る。既に99台が完売。これは、京都ならではないか?技術はあるけれどマーケットが無い、じゃ、マーケットを作ろう。彼らはシャーシを売る、ボディは各自が好きに作ればよい。
これは、京都での成功事例になって欲しいですね。この事は京都だから出来た。大阪や神戸では出来なかった。きっとこれは、京都の歴史が原因ではないかと思うのです。
この仕組みは京都らしいんですが、実はフェラーリと同じですよね。これは絶対、成功して欲しいんですよね。そう言えば、京都とトリノって似てますよね。あれほど元気のなかったイタリアが生き返ったのはビジネスモデルの構築が奏功したからですよね。イタリア、トリノ、ミラノが持っているビジネスモデルを日本に、京都に持って来れば良いという気がします。

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