9-2.京都の伝統工芸

京都伝統工芸の現状
 私は大学でプロダクトデザインを教えております。その前に、フリーランスの立場で京都の伝統産業と関わりを持つ事ができましたので、その時の事を中心にお話し致します。
京都の伝統産業は他の地域と同様、ほぼ壊滅状態であると言えます。繊維産業、織物ですね。 昭和43年の調査と比較すると現在は、5%程度の生産量しか無い訳です。職人さん達のお話を聴くと、既に織物の機械を整備できる方がほとんど居ないとの事です。あと10年もするともう生産は不可能であろうと。街中の問屋さんは全て、マンションに変わっている。そして瀬戸物系もほぼ壊滅。少し生き残っている所も補助金のお陰で何とかやっている状態です。しかし、そういった支援も他の都市に比較すると少ないのでは無いかと考えております。

行政の動き
 確かに京都市の施策は弱いと言われているのですが、最近、動き出した。その理由は稲盛さんが何とかしろとおっしゃった。日本の伝統産業が京都に集積していて、いまお聴きした様に厳しい状況にある。これは世界に冠たるコンテンツな訳で、「これを現代にマッチさせて発信しなさい」とおっしゃったそうです。それで、現在、京都府と京都市が動き出している訳です。

和服業界の現状
 和服の仕事をしておりますが、以前は特許事務所におり、知財関係の仕事をしておりました。着物の仕事をしておりますので、京都の呉服屋さんにもお伺いします。最初は、きっと、門前払い、敷居もまたがせていただけないだろうと思っていたのですが、意外と受け入れてくれたのです。それは何故かと言うと、売れないからなんですね。着物には格と云うモノがあり、家柄、場所、催し物によって、着るべき物がある訳です。実は、その事が自らの首を絞めているんでは無いかと。ウチはそれを変えよう、着物とは着る物である。普段から着る機会を増やそうとしているのです。そう言った意味で、伝統的な着物ではなく、現代着物を作ろう、着物の良さというよりも、もっと気軽に愉しんでもらおうと考えて、大阪で頑張っています。
和服  先程から、伝統産業の衰退の話が出ていますが、呉服屋さんのお話をします。彼らは、中国、韓国、ベトナムに発注しています。日本の現場、4Kの現場では出来ないのです。いくらデザイナーの方とコラボをしてもその製品は日本では生産されないのです。その体制をつくったのは呉服屋さん自身なのです。そして高齢者、70、80の方は、若い頃から着物を着て来られて多くの着物を持っている。箪笥一竿、1,000万の様な状態なのです。その箪笥の中身は現実的には、グラム単位で売買されています。そしてそれが端切れになり、カバンやアクセサリーになっている。でも、そうなる前に、もう一度着たい。いまは介護施設に居るけれど、生きている間に着たい。だから、呉服屋に頼むのですが、着付けをしてくれない。なぜなら、呉服屋さんはその様なお客さんを相手にしても儲からない。今後、着物を買う見込みが無いからです。という現状があります。
 ここから、私の会社の説明なんですが、締め付けない着物を作っています。大阪南港の方の介護施設で実証実験を行いました。この着物を着た方は皆さん、笑顔になります。このような形で伝統的な物を残して行く、そんな方法です。これを実行するには資金が必要なのですが、先程、お話が出たクラウドファンディングは有効だと思います。作家、デザイナーにファンを作る訳ですね。ファンの方がデザイナーに投資する、その場があれば良い訳です。それは現実味があると思います。是非、進めていただければと思います。
 こうした形で改革を進めて行くのですが、やはり、着物は憧れなので根本的に崩す事はいけないと思っています。我々がしたいのは、着物を着る事が楽になる。例えば、マジックテープを使う、紐を使う、その事で着やすくなる、そんな事をしたい訳です。機能性で見ると圧倒的に洋服が良い訳です。動きやすい、着やすいのです。しかし、私に言わせれば、日本も昔はチャンバラがあり、普通の作業もしていた訳です。和服の中にも作業機能性はあります。作務衣などはそうですね。そのような物をもう一度、ファッションとして取り上げて行けば、和の良さを訴えられないかと。

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